【寒蛙(かんがえる)と六鼠(むちゅう)】論説委員・長辻象平(産経新聞)

 ■危うし、クロマグロ

 クロマグロが、シーラカンスになりかねない。

 野生生物の保護を目指すワシントン条約締約国会議に、大西洋クロマグロが諮られる。

 このマグロの生息数が減っているとして、絶滅危惧(きぐ)種(付属書I)に指定するよう、モナコが提案したためだ。

 13日から中東・カタールで始まる同会議で採択されると、大西洋クロマグロは、シーラカンスと同レベルの保護対象魚となってしまう。そうなれば商業目的の国際取引は禁止され、日本への輸出も止まる。開幕を目前にしてモナコ案の勢いが増している様子だ。

 モナコは、取りすぎによって、大西洋クロマグロが激減していると主張している。だが、日本が取りまくったわけではない。日本はむしろ、国際管理委員会で乱獲傾向に警鐘を鳴らし、漁獲量の削減を提案してきた。それに抵抗していたのは欧州の国々などだ。

 それが一転して、漁業国のフランスやイタリアがモナコの支持に回った。欧州連合(EU)も軌を一にした方向だ。米国も3日に国際取引禁止への支持を表明するに至った。条約の締約国は175。出席国の3分の2以上が賛成すれば、大西洋クロマグロは日本から遠ざかる。

 和食人気で欧米人もマグロの消費を伸ばしている。それでも日本のマグロ消費は、突出している。

 とくにクロマグロのトロの人気が高い。日本でトロが食べ始められたのは、第二次大戦後のことだ。食の欧米化につれて、脂っこい食べ物が好まれるようになったことが影響している。

 江戸時代にはマグロに人気がなかった。大店(おおだな)の使用人たちが食べさせられる、まずくて安い下魚の代表だった。だから川柳の笑いの対象になっている。

 「惣(そう)ざいにまぐろを伊勢屋なたで切り」「切り売りのまぐろで伊勢や境論」(切り幅で交渉)。江戸に進出した伊勢商人は、徹底した倹約ぶりで知られていた。マグロは畑の肥料にも使われた。

 そのマグロが、食べ尽くされる可能性が論議されようとしているのだ。クロマグロには太平洋クロマグロもいるが、ワシントン条約締約国会議で指定されそうなのは大西洋種の方だ。

 大西洋産と太平洋産は、生物学上、別種とされているが、今後、分類が変わって同一種にされたりするとやっかいだ。

 絶滅危惧種になっても地中海諸国などは、大西洋クロマグロを領海内で取り続けられる。そのうえEU内で流通させても、ワシントン条約で禁じられている国際取引には該当しない。

 日本の調査捕鯨を妨害したシー・シェパード(SS)も大西洋クロマグロ漁に関心を示している。マグロの体温は、独自の血管系の働きで海水温より10度も高い。高速遊泳の原動力なのだが、SSなどはマグロが哺乳(ほにゅう)類に似た特別な魚だと言いかねない。

 今年10月、動植物を尊重する生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)が名古屋で開かれることも日本の水産界にとって、タイミングの悪い巡り合わせだ。

 それにしても現代の日本人は、何ゆえかくも大量のマグロを食べるのか。調理の必要がないからとすれば、あまりにも情けない。日本の魚食文化の衰退とも無縁ではないだろう。

 カタールでの表決に世界の関心が集まる。資源派と環境派の綱引きが熱を帯びつつ日本を囲む網が巻かれる。(論説委員)

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by wusee7phoj | 2010-03-10 21:10